2013年4月13日土曜日

マルケ 「ナポリ湾」






 この人の絵を見るたびに卓越した情景描写の持ち主だなあと感心してしまいます……。絵の描法そのものにはまったく無理がないのですが、細かな空気感、光の柔らかさ、波の穏やかさ、空の厚み等々、口ではなかなか説明できない見たままの感動や写真では伝わらない臨場感が見事に伝わってくるのですね!人間の目や心に伝わる情報量というものをマルケは熟知していたのでしょう。マルケ独特の感性のフィルターを通して取捨選択された線やフォルム、色彩が実に説得力があるし潔いです…。

 この「ナポリ湾」も初期の素晴らしい作品のひとつと言っていいでしょう。1909年にイタリアのナポリを旅したときの連作かと思われるのですが、生き生きとした波のタッチや空や雲の表情、省略された人々の姿がこの光を浴びたナポリ湾の一瞬の情景を静かに感動的に伝えてくるのです。




2013年4月10日水曜日

モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K.364






 これは本当によく出来た作品ですね。モーツァルトにしてはかなりナイーブな曲調で叙情的なメロディを多分に持った作品と言っていいかもしれません。そのため、「モーツァルトらしくない」とか「どうも気が重くなる」と仰る方もいらっしゃるようです……。
 しかしヴァイオリンとヴィオラがお互いに言葉を交わすように、ある時は互いの楽器の音色を補ない相乗効果を出したり、ある時は寄り添うような芳醇なロマンの詩であったり……、まさに楽器の持ち味を知り尽くしたモーツァルトならでの名曲と言えるでしょう。  
 特に第二楽章の悲しみを堪えた切々とした響きはヴァイオリンとヴィオラの組み合わせだからこそ出し得た名旋律ですね!

 第一楽章冒頭で軽やかな管弦楽の響きに、ささやくようなヴァイオリンとヴィオラの響きが絡むと既にそこには柔らかな光や風が満ち溢れているではありませんか!曲が進むと色調や装いを少しずつ変えながら内省的になったり、光と影のコントラストを表出しながら曲は次第に深化していくのです。

 それが更に徹底されたのが第二楽章アンダンテでしょう!前述のようにヴァイオリンとヴィオラはモーツァルトには珍しくロマンティックな響きと言ってもいいくらい哀愁と憂いに満ちたメロディを奏でています。それは心にぽっかり空いた穴を埋めることができないまま悲しみに打ちひしがれるモーツァルトの姿のようでもあるし、崇高なエレジーのようでもあるのです。ここではモーツァルトは詩人のようにあらゆるものにきめ細やかな感情移入をしながら豊かなニュアンスの花を咲かせているのです。

 第三楽章プレストは前楽章の沈鬱な雰囲気を振り払うような明るく軽快なリズムに支えられた楽章です!前の二つの楽章に比べるとあまりにもあっさりしているのでは……と思う方がいらっしゃっても決して不思議ではありません。しかし決して軽い音楽なのではありません。いい意味で吹っ切れているのです。希望を捨てず、あるがままの自分を受け入れようとするモーツァルトの確固とした意思の力があらゆるフレーズに漲っているのです。

 この作品はギドン・クレーメルのヴァイオリンとキム・カシュカシャンのヴィオラ、ニコラウス・アーノンクール指揮&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(グラモフォン)がフレッシュな響きがたまらない最高の名演奏です!クレーメルやアーノンクールは本来クールな表現が持ち味だけに、この作品も本質的には近未来的なモダンな演奏となっています。
 しかしその表現に何の違和感もないどころか、新しい発見や魅力をもたらす結果となり、さらには新しいモーツァルト像を鮮明に打ち出しているところが素晴らしいですね!クレーメル、カシュカシャンのソロももちろん素晴らしいし、アーノンクールの指揮もよそよそしいところがなく最高のエンターテイメントを成し遂げているのです。